フォアグラと温泉卵

僕がお店を始めた当初は、おまかせのコース一本でした。

何もかもが手探りだったので、とにかく一つのコースに集中できるようにとの思いでそうしました。

当たり前のことかもしれませんが、今まで師から教わった事をベースに一から十まで自分で仕上げる事に精一杯で、

心にはとても余裕などない状況です。


確かお店が2年目に入った頃だったと思います。もうひとつコースを増やすことに決めました。

そちらのコースには、自分のオリジナルの料理を取り入れよう、と決めていました。

かわむらの看板になるような一皿を作りたい。という想いです。


季節ごとには目玉となる食材があるのですが、僕は季節限定ではなく一年間通じて提供できるものをずっと考えていました。

そして何よりフランス料理らしい一皿を。


ヨーロッパの伝統的な食材であるフォアグラを軸に考えました。通年出回る定番の高級食材です。

それにフランス人が大好きな卵。


フォアグラの脂肪分と卵黄のコクの組み合わせで一皿できないかと考えました。

ソースは定石の甘みを生かしたマデラワインのソース。

試食の段階では、味はイメージ通りインパクトがあって良かったのだけど、少しダイレクト過ぎました。

ある程度のボリュームでお出ししたかったので、それには味が重すぎたんです。

何かクッションのような役割を果たす要素をもう一つだけ取り入れよう。色々と試行錯誤しましたがこれには大変苦労させられました。が、最終的にはすりおろした山芋をココットに流してオーブンで焼き上げるスタイルに決めました。


これが現在まで10年以上続けている『フォアグラと温泉卵』です。


これに使うフォアグラは鴨のフォアグラです。

ソテーには一般的にガチョウのフォアグラが適しているとされています。フライパンで焼く際にフォアグラの脂が流れにくいからです。でも僕は口溶けの良い鴨のフォアグラが好きなのでどうにかならないかと考えていました。

この問題を解決してくれたのが、フランスのペリゴール産の鴨のフォアグラでした。ソテーしていてもフライパンに殆ど脂は流れません。表面はパリっと仕上がりに中はトロりとした食感です。


今ではかわむらにはなくてはならない一皿になりました。

この一皿に支えられていると言っても過言ではありません。

ここ数年、断続的にヨーロッパ各地では鳥インフルエンザが流行し、何度も輸入停止に見舞われました。

そんな中でもなんとか絶やすことなく続けて来られました。

それは、当店に供給を絶やすまいと尽力して下さった業者さんがあってこそ。大変感謝しています。